芸術を技術から区別できる意味だけから言えば、
芸術はまず何よりも個人の領域に係るものであります。
そして芸術の目的は、
それと関連した多くの偶然的技術的機能は別にして、
個性の領域を広げることであります。
それゆえ、偶々(たまたま)ある特定の人物、特定の文化におこって
独自の個性ある形をとった感情、情緒、挙措、価値などは、
他の個人や他の文化に力強く有意義に伝達されうるのであります。
共感と感情移入は芸術特有の方法であり、
いわば他の人間の奥深い体験をともに感じること、
そのなかに感入することである。
芸術作品とは人間がそこから自分の体験の
底流をなす水源をともにすることのできる、
目に見え飲みほすことのできる泉であります。
ルイス・マンフォード『芸術と技術』(生田勉訳・岩波新書)p.17
昭和40年発行(初版は昭和29年)の古書より、旧字体を適宜改めて引用しました。
その後『現代文明を考える―芸術と技術』というタイトルで講談社学術文庫でも発行されています。
[2009年5月 4日 (月)元投稿]
(「ココログ「としま腐女子のいろいろ読書ノート」より引っ越し)