読みやすさのために適宜改行や強調(太字化)を加えています。

イベント参加予定

【イベント参加予定】2024/5/19 文学フリマ東京38 / 2024/5/26 COMITIA 148

2021/05/27

「美しいものの観想が心に生み出す満足感」

 …しかし私自身としては美という言葉によって、

物体に備わっていて我々に愛もしくはそれに似た種類の
情念を生み出す一つもしくはそれ以上の性質
である
と定義する。

(中略)同じ趣旨にもとづいて私は愛という言葉
(これによって私が意味するものは、その本性が
何であるかを問わずすべて美しいものの観想が
心に生み出す満足感のことである)
を、欲望ないし色欲と区別する。

欲望は我々を駆って或る対象の占有へと向かわせる
心の活動力であって、それは決して対象が
美しいという理由で我々を刺激するのではなく、
それとは全く別の原因からである。

我々が特別美しくもない女性に対して
強い欲望を感ずることもあろうし、
その反面で同性たる男性もしくは他の動物に
備わる美に対して愛を感じはするが
些かも欲望を感じない場合もあろう。

この事実は美それ自体ないし美が生み出す
愛と呼ばれる情念が、たとえ時折は欲望と平行して
作用することがあっても
決して欲望と同じものではないことを立証する。



エドマンド・バーク『崇高と美の観念の起源』/第三編/一 美について(『エドマンド・バーク著作集1』中野好之訳・みすず書房p.99~100)


[2010年2月21日 (日)元投稿]
(「ココログ「としま腐女子のいろいろ読書ノート」より引っ越し)


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*エドマンド・バークは18世紀の人です。今読むとどうしようもない男性中心主義が鼻につきますが、時代の限界と割り引いて読むしかないです。(笑)この、欲望を伴わない美から得られる満足感、というのはとても身近なものですし、男性・女性と断定的に書かれたところをもっと自由に読みほどくと、自分には「BLとは違うJUNE」にも通じるものが感じられました。

余談:バークは妻帯していましたが、密かに同性愛者だったという研究もあるそうです。
THE NEW YORKER -The Right Man: Who owns Edmund Burke?
そう思うと、引用した一節からJUNEが香ったのは必然かもしれませんし、境界はなくてグラデーションだという気もします。どちらにしろ、この時代同性愛はもちろん大罪ですし、もともと「ホモソーシャル」な社会に生きた人ですから、ありがちといえばありがちな「設定」。今の目で昔の人物をまるごととらえるのはとても難しいことです。研究は専門の方にお任せして、今は言葉尻(?)を味わっておきます。



2021/05/19

「おお、フランケンシュタイン!寛容と献身の人よ!」

 


☆ネタバレご注意☆
小説『フランケンシュタイン』後半部の展開がわかる引用です
※蛇足ながら、「フランケンシュタイン」は怪物(人造人間)を作った人物の名前です。以下はその怪物が自分を作った「創造主」に対する感情を吐露する場面で、彼の苦悩が凝縮されていると思います。語り手は第三者です。


相手は止まって、驚いたようにぼくを見ました。
それからまた創り主の息絶えたからだに目をやると、
ぼくのことなど忘れたように、顔つきもしぐさも、
何か抑えのきかない激情に揺り動かされた様子でした。

「これもまたわが犠牲!」
と彼は叫びました。

「彼を殺しておれの罪は完成された。
このみじめな生もやっと終わりにたどりついたのだ!
おお、フランケンシュタイン! 寛容と献身の人よ!

今さら赦しを請うて何になる?
自分がしたのはとりかえしもつかぬこと、
おまえの愛する者すべてを滅ぼして
おまえを滅ぼすことだったのだ。

ああ、もう冷たい。答えてはくれない」

メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』(森下弓子訳・創元推理文庫p.291)


[2010年2月14日 (日)元投稿]
(「ココログ「としま腐女子のいろいろ読書ノート」より引っ越し)


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*関連コンテンツ*

フランケンシュタインはとても好きな作品で、ほかでも関連コンテンツを(結果的に)作っております。よかったら合わせてどうぞ。


【無料電子書籍】(BOOTH・kindle形式)
フランケンシュタイン:ナショナルシアターライブ レビュー

英国で上演された舞台版フランケンシュタイン(ベネディクト・カンバーバッチ&ジョニー・リー・ミラーのダブルキャスト)を、日本でのライブビューイングで見比べたレビューです。原作からの脚色部分なども書いております。大変すばらしい舞台でした!


【ブログ】ピーター・カッシング~怪奇と耽美と美老人~:
『フランケンシュタイン・恐怖の生体実験』(1969)を再見

1950-70年代のハマー映画シリーズでフランケンシュタインを演じた、ピーター・カッシングのファンブログをやっております。(現在はお誕生日の5/26頃に更新する程度です)

ハマーのフランケンシリーズは原作小説とはかなり別物になっていますが、その中で一番好きな『…恐怖の生体実験』のレビューにリンクを張りました。「これはこれ」として超おすすめです❤

シリーズ一作目の『フランケンシュタインの逆襲』(小説の脚色作品。なぜか一作目なのに邦題は「逆襲」)の感想が見当たらず、探したらブログ以前の日記にメモ程度に書いたきりのようです。自分でも意外です☆




2021/05/12

「資質の最上のものが表にあらわれるため」



セイラはニールが会った女性のなかで、

態度が少しも変わらないはじめての相手だった。

ニールの足をはじめて見たとき、表情は少しも変わらず、
哀れみや恐怖や驚きすら示さなかった。
その理由だけでも、ニールが彼女に夢中になるのは予想できたことだった。

セイラの人となりのあらゆる側面を目にするころには、
ニールは彼女にぞっこんになっていた。

そして、セイラといっしょにいると、
ニールの資質の最上のものが表にあらわれるため、
彼女もニールに恋した。

テッド・チャン『地獄とは神の不在なり』(古沢嘉通訳・『あなたの人生の物語』[浅倉久志・他訳]・早川書房 p.399)


[2010年2月 4日 (木)元投稿]
(「ココログ「としま腐女子のいろいろ読書ノート」より引っ越し)




*横浜ワールドコンでサインをいただいた思い出の一冊でもあります。大事にしていたのに変色してきているのがショック。奥付を見たら2003年発行なので、もう18年も経つのですね…。


【関連サイト】
作家さんのファンなのですが、ご本人のサイト等がないので、2007年から自サイト内にゆる~いファンページ(?)を作って情報を記録しています。よかったら合わせてどうぞ。

テッド・チャンさん備忘録(PC仕様のままのページです)

最近の更新は、モバイル表示に対応できるよう、



でも同記事をアップしています。スマホの場合は少し見やすいかもしれません。長文が多めなので、見やすいほうでご覧くださいませ。

2021/05/05

「魂ほど移動に時間のかかるものは無い」




あちこち駆けずりまわったり、
性急にぼくらの品物をそっくり別の場所へ移したり、
仕事を自分の気に入るように一分間で変えたりすれば、
ぼくらは必ず何かを失くしてしまう。

魂ほど移動に時間のかかるものは無い。

だから一度場所を変えると、魂と肉体が再会するには、
きわめて手間がかかる。

自分は敏捷だと思い込んでいる人々は、
わけがわからなくなってしまう。

多くの場合、魂が足を引っぱるので両者はなかなかうまく再会できない。


ジャン・コクトー『魂の操舵について』(秋山和夫訳・『ぼく自身あるいは困難な存在』所有・ちくま学芸文庫 p.148)


[2009年10月21日 (水)元投稿]
(「ココログ「としま腐女子のいろいろ読書ノート」より引っ越し)