ツバメは最後の力をふりしぼって、もういちど王子の肩にとまりました。
「さようなら、いとしい王子さま」
とツバメはつぶやきました。
「王子さまの手にキスをしてもいいですか」
「いよいよエジプトに行くのだね。安心しました。小さなツバメさん」
と王子はいいました。
「ここに長くいすぎたよね。
でも、手ではなくて、わたしのくちびるにキスしておくれ。
わたしもあなたを愛しているのだから」
「ぼくがこれから行くのはエジプトではありません」
とツバメはいいました。
「ぼくが行くのは死の家です。死は眠りの兄弟です。そうですね」
そういってツバメは王子の唇にキスをしました。
そして王子の足もとに落下して息たえました。
オスカー・ワイルド『幸福な王子』(大橋洋一監訳:『ゲイ短編小説集』所収・平凡社)p.109-110
[2009年2月21日 (土) 元投稿]
(「ココログ「としま腐女子のいろいろ読書ノート」より引っ越し)